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『小さなチーム、大きな仕事』を読んだ

短い本で、挿絵が半分くらいなのでサクッと読めた。せっかく読んだので感想をメモしておく。

一番印象に残ったのは、スタートアップじゃなくて企業を始めようと書いてあったところ。普通WEBとかITとかを仕事でやってる人はスタートアップをやろうぜと言いがちなのだが、この本ではそれを勧めていない。スタートアップとは要するに身の丈以上の借金をして数年後に返すくらいのつもりで事業を始めることだが、普通の企業は身の丈にあった範囲の融資で最初から利益を出そうと頑張る。この本では後者の方法、つまりスタートアップではなくスモールビジネスを勧めているのだ。

スモールビジネスは日本の小さいソフトウェア開発の会社の現実にピッタリあっている。スタートアップを始める人は喋りがうまくてハッタリがうまい。日本の開発者はそれが苦手な人が多い。独立したあとも細々と受注する。スーツを着て営業に回ったりはしない。エレベータピッチの練習もしない。この本が受け入れられるのはそういう人の現実を後押しするようなところがあるからだと思う。つまり、「俺はこれでいいんだ!」と思わせてくれる。

日本にはそうしたやり方で実際に成功した人もたまには見かける。boardというサービスがあるが、boardを作っている会社も受託をやりながらサービスを作って成功したようだ。Inkdropというソフトウェアも確かそれに近かったと思う。(自分も両方のサービスに毎月課金している。)

スモールビジネスをしながら、空いた時間で自分のソフトウェアを開発し、売っていく。多分日本に百人の開発者がいたら98人くらいはそういう夢を抱いたことがあるのではないかと思う。この本の著者たちもそういう始め方を勧めている。でも自分はそれは無理だと思っている。大半の人間は「空いた時間」でソフトウェアを開発したりできない。できる人は限られた人種だ。大半の人間は資金の余裕と「空いた時間」をわざわざを作ってソフトウェアを開発するしかない。

資金を作ってソフトウェアを開発する。この方法は、自分のカネか他人のカネかという違いはあるけれどもスタートアップのやり方と同じだ。資金が尽きたら事業は終わりだ。またカネを作るために奔走しなければならない。だからスタートアップのチームが行う「アイデアの検証」や「市場テスト」はスモールビジネスにとっても有効だと思う。

あと、この本が想定している「仕事」は受託とか人月商売的なやつではないと思うのだが(なぜなら人はなるべく雇うなと書いてあるので)、みんなから嫌われるいわゆる人売りの商売は、それはそれで社会的な意義があると思う。世の中の会社がみんな自社サービス的なことをやろうとしたら、まず大半の会社が生き残れない。それに人をあまり雇わないので人材が育たない。そういう、人をたくさん抱えて人身売買みたいなことをやっている会社の仕事は、まあ良くない側面もかなり大きいけれども未経験の人材を育ててくれるという意味では社会的な意義が大きい。そのあたりを無視してかなり自分たちに都合よく書かれた本という印象を受けた。

スモールビジネスをやっている会社がみんな独自のサービスをやってるわけではない。ソフトウェア開発の会社が自社のサービス運用を仕事にせず他社のソフトウェア開発を仕事にして悪いわけがない。どこの土地でも看板屋は依頼された看板を作るものだ。頼まれもしない看板を作る看板屋も世の中にはいるかも知れないが、せいぜい「営業中」「準備中」などの汎用性の高い看板しか作れないだろう。スモールビジネスとはそういうものではないだろうか。自社サービスの開発とは、農業に例えれば6次産業みたいなもので、うまくいくほうが珍しい。うまく行けば美味しいし楽しいだろう。だがそれはバンドを組んでCDを売るみたいな発想だ。バンドはバーに雇われて演奏したほうが安定収入になる。どっちも人の欲しがるものを売っているという意味では同じだ。受託開発を下に見るような発想は、受託開発が育てた人材の上澄みをかすめ取るような考え方であってあまり褒められたものではないと思う。

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