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フリーランスエンジニア業界は焼畑農業だ

※ここでいうエンジニアとはIT系のエンジニアのことです

エンジニアを雇うときにフリーランスを使うというのが一般的になっている。エージェントは沢山いるし、フリーランスエンジニアになって年収1億を超えたい駆け出しエンジニアはわんさかいるし(最近はそうでもないのかもしれないが)、正社員採用したくないからフリーランス使って気軽にクビ切りたい会社も大勢いる。

フリーランスエンジニアとの取引はものすごくWIN-WINだ。エンジニア側は、今まで会社に「搾取」されていた分のカネを独り占めできる。会社に所属していた頃は人月単価は100万だったのに給料は月給換算で40万しかもらえていなかった。ところがフリーランスになると70,80万は余裕でもらえる。これは税金引いた上でも美味しいし、高価なMacやiPhoneを経費にできる。会社員のときは会社が60万も「上前」をハネていたのに、フリーランスになったらエージェントが20%位をマージンで持っていくだけだ。直契約ならそれすら無い。100%自分のものだ。……というような話は全然珍しくない。

フリーランスを雇う会社にも嬉しいことがある。フリーランスは3ヶ月でクビにしてもよい。正社員を雇って固定費が増えることを何より恐れる中小企業は、正社員より単価が高くても業績やプロジェクトのフェーズに応じてクビにできるフリーランスは非常に助かる。正社員じゃなくても、今までSES企業とかに発注してた単価が100万とかだったのに、同じかそれ以下の単価で管理コストをぐっと下げて労働力を得ることができる。会社同士の付き合いだと、相手も会社なので強気で来られることはあるし、短期間で契約終了とかを繰り返していると信頼を失う。業者のマネージメントもかったるい。その点フリーランスはカネさえ払っておけば言いなりになってくれる。立場が弱いので無茶振りにも答えてくれる。

しかし長期的にはフリーランス偏重の体制は人材の枯渇を招く。SES企業が「搾取」していたカネは、実は会社が新しい事業に投資するために使われていたかも知れない。新しい事業は、「パッケージ」だとか「SaaS」だとかであることが多いだろう。一発当てることを夢見てそれらの事業に会社は投資をするのである。それがヒットするかどうかは割とどうでもよい。そこに投資されたカネが、新人の教育や社員の新しい技術の習得に使われているということが重要なのだ。

SESでは、経歴詐欺を行わない限りは基本的に新人を送り込むことはない。ある程度スキルを持っているプロを労働力として提供するからカネがもらえているのだ。となると、受託の会社が新人を育てるには請負契約の案件か自社開発の案件しかない。特に自社開発のプロジェクトが重要だ。顧客の要求に起因する縛りが無いため、社員は自由に技術選定できるし、納期が厳しくないのでベテランと新人を組ませることで時間をかけて新人を教育できる。そういうプロジェクトを経験することで人材は育つ。

もし発注企業がフリーランスばかり使うようになったらそのような機会はなくなる。中堅〜ベテランの人材は新しい技術を習得する機会を失うし、新人は一人前になる機会を失う。新しい人材が市場に増えなくなるばかりか、中堅クラスのエンジニアがスーパーエンジニアになる機会も減るのだ。

フリーランスを雇う企業にしても同じことで、自社で社員を雇わないということは知見が組織に残らないということだ。組織に知見があるからこそ、その中で育った人材は複利的に価値を高めることができる。フリーランスに何でもやらせていてはそれが不可能だ。結局、市場全体で人材の付加価値が増えない。LaravelとReactとFlutterができる人材ばかりが市場にあふれかえる。ググっても出てこない問題は解決できない。未経験者が仕事を得る手段はプログラミングスクールやらオンラインサロンやらの胡散臭いルートしかなく、多少賢い駆け出しエンジニが「バッターボックスに立つ」ために経歴詐称を覚える。そんなやり方でまともなエンジニアが増えるわけもなく、メガベンチャーやユニコーンに有名大卒のエリートが就職できるのみで大半の凡人は搾取されるだけされた末に心折れて実家に帰るのだ。

この業界が健全に存続していくためには、フリーランスエンジニアを安易に雇うのを禁止すべきだと思う。フリーランスを雇うのは未来のリソースを食っているのと同じだ。自社で社員を雇用して、つまりリスクを背負って、自社製品を開発したり開発業務を受注したりする会社がちゃんとした人材を育てていたのだ。いやまあ、そうじゃない会社もいっぱいあったとは思うけど、少なくともその一部は社員として雇用することによってこそ人材を育てていた。

フリーランスで開発を請け負った個人は人材を育てない。弟子を取るわけもないし、自分自身の成長のために時間を使うことも少ない。フリーランスをしながら成長できるのは、やはり上澄みだけだ。9割以上のフリーランスは、ヒットしたアプリのクローンみたいなものを作らされている。あまりに同じものばかり作らされるので仕事が嫌になってくる。それでも儲けは会社員時代より良いので耐えているのだ。プログラミングを始めた頃の情熱はもう無い。

この業界は後どれくらいフリーランス依存を高められるのだろうか。エンジニアの数が増えないと2030年がヤバいみたいな話が言われているにも関わらず、フリーランスを雇い続ける会社は持続可能性なんてどうでもいいという姿勢をはっきり打ち出しているに等しい。

そういう状況に嫌気が指した。フリーランスと書いているけど、副業エンジニアも同様。もし市場に人材が増えたほうが良いと思っているならば、フリーランスを雇うことでカットできたコストの何割かは人材育成事業に投資するべきだ。それをしない会社には早く退場してもらいたい。安易にフリーランスに転身するエンジニアにも考えを改めて欲しい。転身してもいいけど儲かったなら弟子を雇って欲しい。会社にして社員を雇うとかでも良い。

自分さえ良ければ良いとか短期的にしのげればいいとか考えてる人々が多すぎてげんなりする。エリートだけがいい会社で高給を得ていい暮らしをしてるのも殺意を覚える。世の中を一度水平にすべきだ!!!

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